2022年ベスト・コンサート

 

■3月12日(土)

名古屋フィルハーモニー第499回定期演奏会
井上道義ショスタコーヴィチ#8〉
愛知県芸術劇場コンサートホール

【プログラム】
ハイドン:チェロ協奏曲第2番ニ長調 作品101(Hob.VIIb-2)*
ショスタコーヴィチ交響曲第8番ハ短調 作品65

 

名フィルでは4季ぶりの定期出演となった井上さんによる“スペシャリティ”。折しもロシア・ウクライナの戦火が激しくなってきたころに演奏されたプログラムは、ショスタコーヴィチの第8番でした。

第二次世界大戦中に書かれた第8番は、ショスタコーヴィチの「戦争三部作」と呼ばれる交響曲のひとつ。レニングラード包囲戦の渦中で生まれた第7番、戦勝を記念した第9番。そして、戦争の残虐さと犠牲者への追悼の意が強く込められた第8番です。

悲しみ、虚しさ、抗えなさが随所に表現されたパッセージ。タイミング的にも、ロシア音楽を演奏することが精神的に負担が大きい時期でしたが、それでも名演となったのは、井上さんの音楽の汲み取り方、向き合い方、オーケストラとの素晴らしいコミュニケーションあってこそだと思います。

若きチェリスト・佐藤晴真さんの整然と、そして典雅なハイドンのコンチェルトも素敵でした。晴真さんの演奏はCocomiちゃんのアルバムで初めて聴いたのですが、その魅力に夢中になり、今後も注目したい若手演奏家のひとりです。

来場を予定していなかったものの、2024年に引退を表明した井上さんの指揮をひとつでも見逃したくない、という思いで急遽チケットを取ったのですが、生涯忘れられない公演のひとつとなりました。

 

■9月11日(日)

世界のカルテット∽ カルテットの世界 SQ.80
アタッカ・カルテット
@宗次ホール
【プログラム】
L.v.ベートーヴェン弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調 「ハープ」Op.74

P.ヴィアンコ:Benkei Standing Death(弁慶の立ち往生)

C.ショウ:Entr'acte (アントラクト)

C.ショウ:Evergreen(エヴァーグリーン)★日本初演

C.ショウ:Valencia(ヴァレンシア)

 

ずっとずっと聴きたかったアタッカ・カルテット、レギュラーメンバーでの来日公演。残念ながらVlaのネイサンの出演がキャンセルとなってしまいましたが、急遽ステージに立った牧野さんは、代演とは思えないほど素敵な演奏を聴かせてくださいました。

伝統と新しさを兼ね備えたベートーヴェン弦楽四重奏、牛若丸と弁慶がともに過ごした時間を再現したヴィアンコの作品、緑の力強さを描いた「エヴァーグリーン」、じわりと果実が熟すような響きの「ヴァレンシア」、すべてが秀逸な表現力でした。

特別な音響機材を使うことなく、人の手技だけで、音の距離感や時系列をあれほど豊かに表現できるのか、と関心し尽くしてしまう音。

Vcのアンドリューは、牛若丸の話を「『オオカミ』というゲームで知った*」とのこと。型にとらわれず枠組みを飛び越えていく奏法や解釈の連続に、「だからアメリカの音楽が好き!」と、叫ばずにはいられない1日でした。

*2006年、カプコンより発売されたPlay Station®︎2『大神』。

 

■10月9日(土)

愛知室内オーケストラ第41回定期演奏会
ACO meets BPO シリーズ 第1回 マチュー・デュフォー
三井住友海上しらかわホール

【プログラム】
ベルク:抒情組曲からの3つの小品(弦楽合奏版)
イベール:フルート協奏曲
メンデルスゾーン交響曲第5番 ニ長調 作品107「宗教改革

 

2022年は、フルートの音色に夢中になった1年でした。きっかけはCocomi嬢でしたが、この公演でマチュー・デュフォーの音色に惚れ込んだことが、拍車をかけたのだと思います。 8歳でパリの音楽学校でフルートを学び始めたときから、常に高い評価を得ているデュフォー

イベールのコンチェルトももちろん申し分なかったのですが、アンコールでのピアソラが素晴らしかったのもまた僥倖。音の端々に感じるフランスのエスプリとフルートへの矜恃を、しっかりと感じます。

この日の指揮はアレクサンダー・リープライヒ。レコーディングで高い評価を得ている彼らしく、拍子のとり方やリズム感は安定感が抜群。精巧なベルクと丁寧に作り込まれたアンサンブルのメンデルスゾーンで、心地よいひとときとなりました。

 

 

本当はこちらに東京・春・音楽祭のムーティマーク・パドモア内田光子、パリ管来日、BCJメサイアを加えたかったのだけど、都合がつかず見逃してしまうことに。少しずつでも、来日演奏会が増えているのは嬉しい限り。来年は重い腰をあげ、関東・関西の公演へも足を運ぶ機会を増やしていければと思います(毎年言っているけれど)。

元日は毎年恒例の、ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサートを眺めながら2023年の幕開けをする予定です。みなさまも、どうぞ健やかな新年をお迎えください。